NEC PC-98GS – 幻のマルチメディアマシンがPC-9821へ残した遺産

2026/1/8 RetroPC NEWS編集部

NECの「PC-98GS」は、1991年に発売されたPC-98シリーズの中でも非常に尖った、あまり知られることのない伝説とも言えるマルチメディアマシンです。

当時の標準的なビジネス機(PC-9801シリーズ)とは一線を画し、現在のパソコンの先駆けとなるような「音」と「映像」の機能をこれでもかと詰め込んだモデルでした。

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NEC PC-98GS model 1 (画像提供: asayanさん)

PC-98GSの大きな特徴

「GS」は Graphic & Sound の略と言われており、当時の技術では最高峰のAV機能を備えていました。

  • Windows標準装備:登場したばかりのMS-DOS5.0AとWindows3.0Aを標準装備していました。
  • 驚異的なグラフィック性能:最大640×240ドットで1677万色(フルカラー)の表示が可能でした。当時の標準機が16色や256色だった時代に、写真のような画像を扱えるスペックは、X68000の登場のように衝撃的でした。
  • 強力なサウンド機能:FM音源(6音)、PSG(3音)に加え、PCM/ADPCMの録音・再生機能、各種エフェクト可能なDSP (μPD6380)を標準搭載していました。(PC-9801-73相当)
  • CD-ROMドライブ標準搭載:まだフロッピーディスクが主流だった時代に、CD-ROMドライブを標準で備えていました。
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NEC PC-98GS model 2 CD-ROMドライブを標準装備する (画像提供: asayanさん)

なぜ「伝説」なのか

PC-98GSは、当時のNECが「これからはマルチメディアの時代だ!」と意気込んで投入したマシンでしたが、いくつか大きな壁がありました。

  • 価格が非常に高価:本体定価が約70万円〜80万円近くし、一般ユーザーにはなかなか手が出ない高嶺の花でした。
  • まだ主流はMS-DOSであり、新しいグラフィックスモードを使うためにはソフトウエアの対応が必要ですが、機能を活かすアプリケーションがほとんど登場しませんでした。

以下のスペック表をご覧いただきましょう。PC-9801シリーズとはとても思えないスペックでした。

主な仕様(スペック)

CPU386SX(クロック約20MHz)/V30(クロック8MHz)
ROMBIOSおよびN88-BASIC (86):96Kバイト
RAMユーザーズメモリ:2.6Mバイト
メモリ専用スロットにより増設(最大6Mバイト)可能。最大ユーザーズメモリ:12.6Mバイト
VRAMテキスト用VRAM:12Kバイト
標準画面グラフィック用VRAM:256Kバイト
拡張画面グラフィック用VRAM:1Mバイト
テキスト表示80文字✕20行、80文字✕25行、80文字✕30行、40文字✕20行、40文字✕25行、40文字✕30行
リバース、ブリンク、シークレット(キャラクタ単位に指定可能)、カラー8色(キャラクタ単位指定可能)
標準画面/
640✕480ドット1画面(カラー)
640✕400ドット2画面(カラー)
640✕200ドット4両面(カラー)
640✕480ドット4画面(モノクロ)
640✕400ドット8画面(モノクロ)
640✕200ドット16画面(モノクロ)
※カラー4096色中16色同時発色
拡張画面/
640✕200/240ドット1画面1,677万色同時発色
640✕400/480ドット1画面65,536色同時発色
640✕400/480ドット2画面1,677万色中256色同時発色
グラフィックスフレームバッファ標準画面/
640✕200ドット(4ビット)
640✕400ドット(4ビット)
640✕480ドット(4ピット)
拡張画面/
1,024✕256ドット(24ビット)
1,024×512ドット(16ピット)
1,024✕512ドット(8ビット)
バックドロップ表示オーバースキャン領域全体を1,677万色中1色で表示
デジタイズビデオ表示NTSCビデオ画像:1,677万色デジタイズモード(外部同期)
※オブションの「ビデオポード」が必要
画面合成/特殊機能スムーススクロール/球面スクロール(拡張画面のみ)
プライオリティ付画面合成(透明/半透明指定可能)
フェードイン/フェードアウト
論理演算付2画面リアルタイム合成
ビデオデジタイズ(オプションの「ビデオポード」が必要)
日本語表示日本語ROM本体標準装備16✕16ドット(ゴシック体)JIS第1、第2水準漢字など約7600種ユーザ定義文字188種40字✕20/25行
固定ディスク40MB (SASI)
CD-ROMGSmodel 2本体に内蔵量540MB(平均アクセス時間350ms)
CD-ROM内カートリッジケースによるフロントローディング方式
SCSI接続
音源FM音源:6和音(ステレオ)リズム音源:6和音(ステレオ)SSG音源:3和音
LINE入力:
内蔵DSPのPCM/ADPCMのサンプリングデータとして入力
※内蔵音源、LINE入力の音声に対してサウンド特殊効果が可能
オーディオライン入力:モノラル2chまたはステレオ(RCAピンジャック✕2、L/R)
ライン出力:モノラル2chまたはステレオ/サラウンド(RCAピンジャック✕4、L/R/サラウンド)
ヘッドホン出力:モノラル2chまたはステレオ(3.5φステレオミニジャック)
スピーカ出力:内蔵スピーカ(モノラル)
映像アナログRGB出力(水平走査:15.7/24.8/31.5KHz
垂直走査:55~80Hz)
NTSCコンポジット出力(S信号端子付)[映像端子:1Vp-p(75Ω)、S端子(Y):1VPp(75Ω)
NTSCコンポジット入力(S号信号端子付)、(オブション)[映像端子:1Vp-p(75Ω)、S端子(Y):1Vp-p(75Ω),S端子(C):0.28Vp-p(75Ω)
主な添付品マウス、電源ケーブル、アースケーブル、SCSIターミネータ、グリーティングガード、お客様登録カード、保証書、内蔵固定ディスク、インストールキャンフトウェア保守用フロッピィディスク媒体
PC-98GSスタートアップディスク、ガイドブック、ハードウェアマニュアル、日本語入力ガイド、N88-BASIC(86)ガイド、MS-DOSユーザーズガイド、CD-ROM EXTENSIONS Ver. 2.0ユーザーズマニュアル、絵でわかるWINDOWS、MS-WINDOWSユーザーズリファレンスマニュアル、Authorware入門(Welcome to Authorware)、Authorware リファレンスマニュアル、Autherware チュートリアル
価格model 1:¥698,000 (税別)
model 2:¥828,000 (税別)

PC-98GSとPC-9821は、どちらもNECが「マルチメディア」を掲げた製品ですが、その立ち位置は「実験的な超高級機」と「普及を目指した次世代標準機」という大きな違いがあります。

PC-98GSを整理して生まれたのがPC-9821である、と言い換えることもできます。主な違いを比較表とポイントで解説します。

PC-98GS vs PC-9821 比較表

項目PC-98GS (1991年)PC-9821 98MULTi(1992年)
コンセプトマルチメディアの実験的・豪華機PC-98の次世代標準
CPUi386SX 20MHzi386SX 20MHz
CRTディスプレイ別売
PC-98GS-C1 ¥138,000(税別)
付属
価格model 1:¥698,000 (税別)
model 2:¥828,000 (税別)
PC-9821 model S1: ¥318,000 (税別)
PC-9821 model S2: ¥438,000 (税別)
グラフィックス表示上記のスペックの通り多様なモードを装備PEGC搭載
640×400ドット1,677万色中256色
640×480ドット1,677万色中256色
HDD40MBPC-9821 model S1: なし
PC-9821 model S2: 40MB
OSMS-DOS 5.0 / Windows 3.0A〜MS-DOS 5.0 / Windows 3.0A〜
サウンドPC-9801-73 相当 (¥90,000)
DSP搭載
PC-9801-86 相当 (¥25,000)
DSP非搭載

PC-98GSは、まだマルチメディアの正解が見えない中、開発時間をかけて当時の技術を全て詰め込んだ「フルスペック機」です。価格も80万円近くと一般ユーザーには手の届かないマシンでした。

その後に登場したPC-9821は、PC-98GSで得られた試行錯誤を踏まえ、Windows時代の到来を見据えて機能を整理し、コストパフォーマンスを追求した「標準機」と位置付けられます。
30万円台という現実的な価格設定により一般家庭やビジネス分野へ広く普及し、豊富な対応ソフトウェアに支えられて圧倒的な販売実績を残しました。